【イベントレポート】「スポーツ界の#世にも奇妙な不均衡」後編(2020年2月3日)

2月3日にDAZN CIRCLEで開催された、Di-Sports(Di-Spo)3回目のトークショー。

女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとしたプロジェクト「Ladyknows」とのコラボ開催となった今回のトークショーの内容を、3編にわたってレポートしています。

前編では、今回ファシリテーターを務めた辻秀一氏と辻愛沙子氏によるDi-SpoとLadyknowsの活動を紹介しました。中編からは、Di-Spoの女性アスリート5名をゲストに迎えてのトークセッションの様子をお伝えしています。今回のゲストは、小堀宗翔氏(ラクロス)、NARUMI氏(ブレイキン)、伊藤華英氏(水泳)、佐藤文机子氏(ライフセービング)、桂葵氏(バスケットボール/3on3)の5名。後編では、不均衡な中でも彼女たちがパフォーマンスを高められる理由に迫ります。

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不均衡に打ち勝つパフォーマンスの高め方

辻(愛):そういったいろんな課題や不均衡がある中でもアスリートとして自分自身のパフォーマンスを上げていかなければいけないと思うのですが、不均衡がある状態の中で、どのようにパフォーマンスを高めていったのか教えていただければと思います。

小堀:私はやっぱりさっきの話に尽きるのですが、いろんなことが起きる中でも、自分の心の持ちようがすごく大事だなと思います。あと、今のファッションの話に絡めると、私は逆で、練習の後に自分の体に負担がかからないようにジャージスタイルで過ごしていると、女の子なんだからそんなジャージ姿で外歩かないの、とか言われることもあって。今は結構女の子でもファッションとしてジャージを着こなすことが増えてきましたが、当時はあまりそういったファッションはなかったので、自分の中でファッションとしてのジャージの取り入れ方を確立させていきました。周りから否定されることに対して、むしろどうしたら自分が楽しめるか、というように、考え方をシフトしていましたね。

 

 

辻(愛):なるほどなるほど。

辻(秀):いつも着物じゃないですか。着物は自分で着れるんですか?

小堀:5分くらいあれば。

辻(秀):5分で着れるの?素敵ですね。着物を着ることで何か気分が変わるとか、着物で女性らしさを意識することはあるんですか?

小堀:ありますね。自分は普段茶道の先生をしていて、土日にラクロスの選手をしているという、真逆の生活をしているので、ラクロスをしている時の所作があれば、着物を着ている時の所作もあります。自分が着るもので、自分が演じる人は変わってゆくというか。着物を着るときは、紐を結んだり、髪を結ったり、最後に帯を結んだり…といった結ぶ行為を通しながら、ラクロスの選手としての所作を一つずつ落としていって、茶道の先生にシフトしていく感覚なので、着るものによる心と体の変化は実際にありますね。

辻(愛):服でスイッチしていくんですね。

小堀:そうですね。

辻(秀):女性っていう感覚もありますか?

小堀:あります。着物姿だと歩き方も変わりますし、腕が出ないような所作をするとか、バンザイをしないとかもあるので。

辻(秀):茶道界においても、男性の茶道家と女性の茶道家で所作が違ったりするんですか?

小堀:はい、もともとは違うところもあるんですが、統一されてきているところもあります。私の流派の遠州流の場合は、もともと男性の流儀なのですが、お茶のプロセス自体はみんな一緒です。ただ、手が大きい人は手が小さく見えるように重ね、手が小さい人は大きく見えるようにするなど、流祖が作ってきたものに寸分違わぬお点前ができるように、体の大きさや性別が違う人たちが全く同じように見えることを目指して自分を近づけていく所作になります。

辻(秀):格差がないようにみんな努力しているんですね。

NARUMI:私は、前から人間みんな違うと思っていたので、男としての特徴とか女としての特徴とか、男女に二分して意識するようになったのは最近なんです。でも、どうやったら自分が良くなるかしか考えていないので、男女の違いもプラスに働いています。男の人を倒すとスカッとするんですよね。「男やし偉いんじゃないんだぞ」みたいな。

辻(秀):自分の軸でやってるんだね。男に負けたくない、というより、あいつに負けたくない、って感じでしょ?

 

NARUMI:そうです。

辻(秀):自分と、それぞれの個人を対比してるよね。

NARUMI:その人のいいところは勉強させてもらって、自分の中に落とし込んで活かそうとするんですが、その時に女だからできないっていうのはなくて…

辻(秀):じゃああんまりカテゴライズしてない感じだね。世界で戦うと、「なんとかの国の人だから」と国や人種で決めつけがちにもなるけど、それもない?

NARUMI:全然ないです。これから出てくるんちゃうかな、と思いますが。それこそユースオリンピックの時とか、どこの国があーだとか、絶対起こるって言われてたんですが、結局なかったんですよ。イメージですよね。なんなんですかね。

辻(秀):脳が作るんですよ。教育によって人間の脳が意味づけしてカテゴライズするから、厄介になるんですよ。

辻(愛):女性のエンパワメントを謳っているものの、私も普段は鏡を見て過ごしているわけではないので、24時間自分が女として生きていることを意識しているわけではなく、むしろ相手が男性だろうと女性だろうと、上司だろうと同い年だろうと、関係なく話します。

性別について意識させられるのは、他者からが多いんです。ビジネス系のメディアに取り上げていただく際に、「女子大生なのに〜」とか、「女の子ならではの〜」とか言われたりして。

NARUMI:年齢もいらんよね。

辻(愛):思います、それ。みんなそうやって取り上げるのが好きなんですよね。だから、私としては鏡を見せられている気持ちになることが多いんです。

辻(秀):今の話聞いてて思ったけど、「はなえちゃん」とか、女の人のことを「ちゃん」付けで呼ぶのも良くないのかな?

伊藤:気にし過ぎも良くないんじゃないですかね?

辻(愛):関係性次第なんじゃないですかね。大企業とかでは、関係性ができるまでは新入社員を「くん」「ちゃん」ではなく「さん」付けで呼びましょう、っていう風潮があるみたいです。

辻(秀):はなえさん、どうですか?笑

 

伊藤:私は現役時代に背泳ぎと自由形をやっていたのですが、チームメイトは全員男性だったんです。NARUMIさんと一緒で、私も自分から後輩たちに「今日お月さまの日だから、私に話しかけないで」と言っていて、そうすると後輩たちも「怖いから、はなえさんに声かけるのやめよう」ってなって。あとは、「私に負けているようじゃダメだよ」とか「やる気ないなら帰って」みたいなことを平気で言っていたことも思い出したのですが、私の場合はある程度オープンにして思っていることを口にすることで、自分自身が練習しやすいようにしていました。

やっぱり、環境のせいにするとパフォーマンスも下がってしまうので、最終的には自分自身がどうなりたいか、ということにフォーカスしてメンタルをコントロールすることに行き着いたかな、と思います。

辻(秀):日本代表になる頃にはそのことに気づけていたの?

伊藤:20歳を過ぎてからですね。20歳過ぎて、いろんな挫折を繰り返しながら、女子高生とか美人とか言われてた頃の悩みを乗り越えて、一人のアスリートとしてどう見せていきたいか、一人の人間としてどう生きたいかを考えられるようになりました。そしたら、人を見るときも、速さとか性別とか関係なく、この人自身をリスペクトしたいと思えるようになりましたね。

辻(秀):いいね、さすが。その通りだよね。でもみんなそこに気づけないまま生きてるから、残念だよね。気づいたら楽なのに。

伊藤:人のせいにしているうちは、不満が自分の脳みそを占めちゃって、他のいいことを考えられなくなっちゃうんですよね。コーチからの声掛けが私にだけ違ったとか、女だから信頼されてないんじゃないかとか、そんなこと考えていても全然パフォーマンスは上がらない。なので、自ら行くようになりました。

辻(愛):一回話してみると、相手もただ気づいていないだけだった、みたいなことってありますもんね。

辻(秀):それはよくある。知らんかったすまん、みたいな。知らないことが悪いことじゃないんだけど、知らないことに対する恥の文化があるね、日本は。

佐藤:今から20年以上前、私が現役だった頃って、男性と女性の不均衡に目を向けていなかった時代なので、男性より女性がちょっと下にいるのが当たり前で、それを我慢することも当たり前な風潮があったんです。でも、当時は遠征先で感じていた不満やモヤモヤを自分の中で処理できなくて。その時、何のために自分が頑張っているのかを見つけられると頑張りがいが出てくるし、不満ばかりと戦うよりも力が出せると辻先生から言われたんです。それで私にとっては、自分のチームで同じような思いをしている子の声を拾って少しずつ行動に繋げようと思うことが一番のエネルギーになりました。

選手を辞めた後も、コーチとして現場に立って、チームを変えていこうと思って動いています。だから、国内大会で女性が不利になっていたのを改革したときも、ぶつかって変えていこうというエネルギーが働いていました。

辻(秀):世の中には理不尽がいっぱい転がっていて、バラ色のユートピアに生きている人はいないわけですよね。みんな格差や問題に囲まれながら生きているけど、結局自分は自分。安定性の高い人は、今の文机子の話のように「なぜ自分はここでやっているのか」っていう目的を大事にする生き方ができます。外側にある目標ばかりを追いかけてしまうと周りが気になってくるんですが、安定性の高い人は、「なぜやるのか」という目的が先にあって、それをもとに目標を立てていけるんです。反対に自分を見つめない人は、自分の内側にある目的が見つからないまま生きてしまい、周りと比べたり評価をしたり、優劣や上下で世の中を見てしまうので、どんどん苦しくなっていく。文机子のように、自分の目的が分かれば、いろんな理不尽がある中でも自分は自分のために一歩前に出るんだ、という生き方ができますよね。これは、老若男女関係なく誰にでも必要な生き方だと僕は思うけどね。

 

 

辻(愛):私は自由な感じの両親に育てられたので、女の子だから云々と縛り付けられることがあまりなく、職場の上司もかなり自由でフラットな人だったので、ぶち壊さないといけない確固たる壁があるような環境で育ったわけではないんですよね。でも過ごしている中で世の中に理不尽なことがあると知ったので、じゃあ私はそれに対して何ができるんだろうと思って。実際、みんなが声を上げなければいけないというのは違う気がしていて、ポップに話せる人が話せば良いと思うんです。それこそ広告の仕事をやっているので、コミュニケーションを仕事としている人がメッセージとして伝えていったら、通じる人が1人でも増えるのではないか、と思ってやっています。なので、いろんな人達が理不尽に感じているんだとしたら、文机子さんの「変えていきたい」という目的によって救われた人たちもたくさんいるんだろうなと思いました。

女性アスリートと身体的特徴

辻(秀):葵ちゃんは、「身長何センチ?」とか「どんなスポーツやってるの?」とか、人生で何回くらい聞かれてるの?

桂:身長は180センチです。さっきも聞かれたんですが、私は聞かれても無感情なんですよね。電車もちゃんと気をつけて乗るし、今の時代は服とか靴とかもサイズに困らないし、強いてあげるとすれば、旦那探し難しいかな、くらい。私は全然大丈夫ですね。

ちょっと別の話になりますが、思ったことがあって。LGBTQってあるじゃないですか。私は当事者ではないのですが、女性スポーツ界ってなんとなくオープンな気がするんですよ。バスケやってると結構周りに多いですし、女の子だった同級生が男の子になってめっちゃかわいい女の子と結婚してたりするし。「誰々と誰々が付き合ってるらしいよ」みたいな話も、女子同士のカップルだろうと男女のカップルだろうと同じテンションで話してましたし。私は高校生くらいからそういうコミュニティの中で育ったからあんまり違和感がなかったんですけど、両親に「誰々って男っぽいよね」って言われたり、会社の人から「女バスの寮生活って実際どうなの?」って聞かれたりしたときにありのままを話すと、相手のリアクションに違和感を感じることがあって。女子スポーツ界って多様性に寛容だなぁと感じました。

男バスではそういう話を聞かないので、女性スポーツ界のいいところなのかもしれません。

辻(愛):性的自認、自分の性別は何なのか、という点で言うと、女子はピンク色のユニフォームを着る、とかそういうのあったりするんですか?

桂:バスケでは無いですね。バスケのユニフォームはダボダボなんですが、私はそれが男っぽくて嫌だったので、少しでもこの太い脚が細く見えるように、一生懸命ズボンを折り曲げて履いてました。でも、逆にそれが女子っぽいとかもなかったです。

辻(愛):すごい素敵な環境ですね。

会場からの質問タイム

辻(秀):そろそろ時間ですので、質問があれば受け付けたいと思います。

質問者:トランスジェンダーの女性アスリートが競技に参加することについて、どう思いますか?

一同:身体能力が違うよね。

佐藤:女性は男性に比べて男性ホルモンが少ないですし、筋肉量も30%少ない。どんなに頑張っても。それはもう自分が認識している性別とは関係なく個体として違う身体の作りなので、同じように考えてしまうと、女性の選手に勝ち目はないと思う。

辻(愛):専門的な話になっちゃうんですけど、トランスジェンダーでホルモン注射されてる方はどうなんでしょう?筋力とか。

辻(秀):ホルモンが影響を受けるとドーピングになっちゃう。

辻(愛):トランスジェンダーの方は厳しいですね。

桂:3X3は男女一緒に公式戦ができます。たしかにワールドツアーやオリンピックとなると色々と制約があるのですが、ひとつ下のグレードであれば、男女混合で出られる公式戦があります。3X3はトランスジェンダーの人めちゃくちゃ多いんです。

辻(秀):ストリートカルチャーは本来そうで、差がないんだよね。それを競技化すると、誰かが枠組みやルールを作って同じ条件の中で優劣をつけることになる。

辻(愛):楽しむスポーツと競技としてのスポーツは、やっぱりちょっと違うのかもしれないですね、本質的には。

NARUMI:ルールが無いと観てる人がわかりにくいから、ある程度ルールを決める必要があって、しょうがない部分も出てきちゃうのかな、と思います。ルール無いほうが好きですけど。

辻(秀):人間や組織の進化論的に言うと、最初は権威が人を支配している「レッド」という状態で、次にルールが人を守っている「アンバー」という状態で…と進化していくのですが、最も成熟している状態は、個が主体的に動いてコミュニケーションで繋がっている「ティール」という状態なので、ストリート性って成熟しているティール組織だな、と思ったね。逆にオリンピックなんかは華やかだけど、やっぱりルールとか基準にガチガチに縛られている世界ではあるかな。

辻(愛):ルール化で浮き彫りになるところがありつつ、ルールを均一化してくれることでフラットなスタート地点から出られるっていう平等さもありますよね。

辻(秀):そうだね。そこは難しいところですよね。他に質問ある方いますか?

質問者:「アスリートだからこうじゃない?」と言われたことがあったら教えてください。

一同:めちゃくちゃあるよね(笑)

 

伊藤:水泳選手は、肩幅広いとか、脳みそ筋肉だよねとか言われます。すごい勉強頑張っているアスリートもいるのに。あと、強いんでしょ?とか、自己中とかも言われますね。アスリートは筋肉勝負、みたいなイメージがあるみたいです。女性らしく人並みに恋愛の悩みもあるのに、それもなんか違うと言われたり…。アスリートだからって特別じゃないんですけどね。気が強くていいじゃないですか(笑)

佐藤:負けず嫌いではあるんですけど、気が強いわけではないって思ってます、自分では(笑)

辻(愛):負けず嫌いを良くないこととみなす風潮ありますよね。

桂:体育会採用、めちゃくちゃ嫌でした。だから入社した瞬間から体育会の「た」の字も見せないような振る舞いをいつも心がけていました。私は体育会キャラじゃないです、上下関係とか知りません、お酒飲めません、みたいな。

NARUMI:私は逆で、ダンスってまだちょっとチャラいイメージがあるから、ダンスやってますって言うと、クラブ行ってお酒ばっか飲んでるチャラい人だと思われるんですよ。ストリートダンスって種類がいっぱいあるんですが、ブレイキンはアスリート色もありつつ、アーティスト色もあるダンスなんです。普通に筋トレとか体のケアもしないといけないんですけど、そういうのはもっと自分たちが発信していかないと伝わらないと思うから、まだチャラいと思われてしまうのもしょうがないのかなって思ってます。

小堀:ほんとにちょっとしたことですが、体育会出身だと、お酒飲めるよねって言われたり、アスリートだからたくさん食べるでしょって言われて食後に残り物を出されたりとかします。

辻(愛):今の時代、大きな不均衡にはみんな気づいても、意外と小さいことがじわじわ来たりしますよね。

辻(秀):それはスルーしていくの?

辻(愛):言っていくことも大事だと思います。

辻(秀):大事なんだよ。言っていくことと、自分の中に残さずに機嫌よく生きていくことの、二刀流が必要なの。

辻(愛):相手が気づいていないとしたら他の人にも同じ発言をしてしまうことになるので、自分がそうしたいから言うというより、それを繰り返さないためにも言ったほうが良いですよね。

辻(秀):怒ったり落ち込んだり、心を削ってしまうようなことはもったいないからスルーするけど、その社会現象を無視することは違うよね。

 

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今回は、LadyknowsとDi-Spoのコラボイベントとして、女性アスリートを取り巻く不均衡を起点にさまざまな議論が展開されました。

Ladyknowsが取り組むクリエイティブなアプローチと、Di-Spoが大事にしている対話とごきげんによるアプローチ、いずれも世の中の不均衡を乗り越えて生きていく上での学びがありました。

5名の女性アスリートの話からは、競技ごとの特性も見えてきましたね。

今後もDi-Spoでは、アスリートとともに様々なテーマでトークショーを行ってまいりますので、引き続きよろしくお願いいたします。