桧野真奈美 (ヒノ マナミ)

ボブスレー

プロフィール

小中学生の頃はスピードスケート、高校からは陸上競技に取り組み、19歳の時にボブスレーを始めた。2006年トリノ(アジア女子として初)、2010年バンクーバー五輪の2大会に出場。全日本選手権8連覇。
社会医療法人北斗 北斗病院(北海道帯広市)所属。冬季オリンピック・パラリンピック競技団体のアスリートアンバサーダなどを務め傍ら、トップアスリートの研修、スポーツ栄養、教育などの分野に携わっている。

<好きな食べ物>

1.レタス

2.とうもろこし

3.ホタテ

<ご機嫌の価値>

1.人間らしく生きている。

2.のびのび、ありのまま自然体の自分でいれる。

3.ありがとう”の気持ちが湧いてくる。

<関連情報>

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インタビュー

辻先生)今日はボブスレーの桧野真奈美さんにインタビューしたいと思います。まず、桧野さんが感じるボブスレーの魅力を教えてください。

 

桧野さん)なんであんな競技やってるのってよく言われるんですけどね。私も最初ボブスレーっていう競技知らなくて、たまたま誘われて始めたっていうのがきっかけなんですけど。やればやるほど奥が深くて、なぜなら、最高速度で時速150〜160キロ、体感速度だと時速600キロくらいって言われているんですね。その中で、私はそりに乗って運転して、コースどりをしていく役割で。百何十キロ出てる中で、失敗もたくさんしながら2センチとか3センチくらいを調節しながら滑っていく。絶対に完璧に滑ることってないので、常に課題を見つけながら滑りを追求する面白さがあります。

 

辻先生)1試合何メートルの距離を何秒くらいで滑るの?

 

桧野さん)コースによっても違うんですけど、1つのコースがだいたい1500メートルから2000メートルくらいのコースなんですね。で、世界中に16コースくらいあるんですけど、コースによって例えば直線が長かったり、大きいカーブが4メートル位の高さのところにあったり、右右右とか左左左でカーブが続いていったりするコースもあって、そのコースによって特徴が全然違うんですよね。

 

辻先生)ああそうか。だから世界記録とかがあるわけじゃないんだね。その大会での1番を決めるのであって。

 

桧野さん)そうですね。大会によって天候も違って、雨降ってる日もあれば雪降ってる日もあれば、すごい暖かい日もあれば寒い日もあるので。コースレコードっていうのは一応あるんですけど。

 

辻先生)参考にはならないわなぁ。

 

桧野さん)ならないですね。

 

辻先生)何が楽しいわけ?

 

桧野さん)死ぬかもしれないんですよ。だから死ぬくらいの気持ちを入れてスタートラインに立つんですよ。恐怖もあるし、自分死ぬかもって思う中で、心を整えて自分に勝つというか。フラフラで今日死ぬかもって思いながら滑ったら、ほんとに死ぬので。正直スタートラインに立つまではすごい不安を抱えながらいるんですけど、スタートラインに立った時には自分が1番早く滑れると思って強い気持ちで臨んでいく、その心の整え方はすごい苦労もするんですけど楽しかったですね。

 

辻先生)平均何分くらいなんですか。

 

桧野さん)平均は50秒くらいから1分10秒くらいの間です。

 

辻先生)落ちている間は恐怖なんですか?楽しいんですか?

 

桧野さん)動き出したら、怖いって頭の中に浮かんだ瞬間に絶対転倒します。本当に恐怖心なんですよ。いつ死んでもおかしくないから。でもスタートラインに立って動き出すときには本当に強い気持ちで、自分の成功イメージしか考えないですね。

 

辻先生)死ぬかもしれないのに、なんで夢中になっちゃうんだろう。

 

桧野さん)なんだろう、やっぱり完璧に滑れないんですよね。時速何百キロも出てる中で自分でコースラインを探しながらコントロールして滑るので。ゴールした時に完璧だって思ったことが1回もなくて。

 

辻先生)もっとよくできるんじゃないかと思うわけ?

 

桧野さん)ここが2センチ左に入ったらもっと加速がつくんじゃないかとか、十何個カーブがある中で一個が成功したとしても、次滑り出したら今度は後半のカーブ失敗したとか。そこがもっとうまくいけばもっとうまく滑れるんじゃないかとか。あと、どのコースも1日に2本しか滑れないんですよ。

 

辻先生)練習も?

 

桧野さん)はい。それ以上滑ったら集中力がなくなっちゃうので。

 

辻先生)あら。

 

桧野さん)本当にイメージトレーニングがすごい大事なんです。私のコーチはオランダ人だったんですけど、コース滑る前はコーチと2人でコースの中を歩くんですよね。歩きながら、今日は天候もこうだし氷の状況はこうだから、今日ここのラインを滑っていこうとか、2人で組み立てながら作戦を立てるんですよね。で、それで1本滑って。

 

辻先生)インスペクションだよなインスペクション。

 

桧野さん)あ、そうです。コースインスペクションです。で、滑る時はコーチが見ていて、自分の感覚とコーチから見た感覚の差を埋めながら、もう1本だけ滑るっていう感じです。

 

辻先生)その舵取りのあなただけがやるの?

 

桧野さん)そうです。

 

辻先生)ボートで言えばコックスみたいなポジション?

 

桧野さん)パイロットって言うんですけど。

 

辻先生)パイロットって言うんだ。パイロットがコースどりをするんだ。

 

桧野さん)そうです。

 

辻先生)その1センチ2センチのコースどりを、どういう姿勢でやってるんですか?

 

桧野さん)乗り方は長座ですね。ハンドルがあるので、ハンドルをコントロールするんですけど。バスのつり革みたいなハンドルが2つあって、それを引くとボブスレーの下のランナーっていわれてるスケートの端の部分に伝わるので、それをコントロールしながらコースラインを滑っていくんです。私たちは上手に滑ることを求めてなくて、とにかく速く滑らなきゃいけないので、カーブに対しても上手に曲がるのではなくてどんどん加速しながら曲がることをイメージしてます。あと、時速百数十キロ出てるとGが自分に8Gくらいかかるところがあって、Gに逆らうとポーンって飛んでいっちゃってコースアウトしちゃうので、ラインにGを合わせながらコントロールしてます。

 

辻先生)面白くなってきたな。

 

桧野さん)百数十キロで向かっていくから、例えば8カーブ目くらいで転んでも、8カーブが悪いわけじゃなくて、その3つか4つ前のカーブの失敗が響いていて、それが耐えられなくなって8カーブ目で転ぶんですよ。

 

辻先生)完璧を求めてるんだね。

 

桧野さん)はい。転ばなくてもとにかく速く滑らなきゃいけないので、そこのラインを追求したら、転ぶか転ばないか、死ぬか死なないかの1番ラインが1番速いので。だからもう恐怖心というか常に自分との戦いで、でも遊びでやっているわけではなくて勝負したいから、賭けに出るんですよね。

 

辻先生)何人乗りなの?

 

桧野さん)女子は2人乗りなんですよ。私は運転するので、パイロットです。もし大きな事故が起きたら私の責任になります。後ろの人は私に命を預けて乗ってくれているので、私は中途半端な気持ちでは絶対できないです。責任持って毎日毎回気を抜かずにできる準備は全てしないと、絶対後悔する。相手の人もリスペクトしなきゃいけないですし、だからこそチームとの信頼関係もあります。

 

辻先生)もう1人の人はどうやって座ってるの?

 

桧野さん)後ろの人もつかまるところがあって、足を前に出してずっと下を向いています。

 

辻先生)抵抗かからないように。

 

桧野さん)はい。動かないです。

 

辻先生)その人がスタートの時の初速を出してる人なんでしょ?

 

桧野さん)そうですそうです。私たちのそりって200キロぐらいあるんですけど、その200キロのそりを、50メートルくらい押してとにかく加速するんですよ。だからその後ろの人は体重があって、200キロのそりを一瞬にしてボーンって出せる走力がある人です。

 

辻先生)あなたは押さないの?

 

桧野さん)私も最初押します。私も押すので、私ももちろんパワーと走力と瞬発力がないとだめで。乗り込んだら私は運転する方なので、空間認知能力も必要で、自分がどこでどういう風になっているかとか、力のベクトルがどっちの方に向いているかっていうのを体で感じながら、運転している感じです。

 

辻先生)トップレベルの速さを狙わなければ、桧野ちゃんの後ろに僕を乗せてもらって上から下まで死なずに降りることはできるの?僕はただ後ろに乗ってしがみついてるだけで、桧野ちゃんに運転してもらって。

 

桧野さん)後ろの人はそりを押して乗り込んでくれたら、動き出しちゃったら技術的なものは特に必要なくて、ずっと重りになって一緒に滑ってる感じです。

 

辻先生)じゃあ、僕みたいなただのおじさんでも、桧野ちゃんを信じてボブスレーの速さを体験したいって言ったら、そのスピードを体験することは可能なの?

 

桧野さん)できますできます。

 

辻先生)なるほど。怖いけどね。

 

桧野さん)たまに、取材とかで乗ってくださるメディアの方や芸能人の方もいるんですけど、救急車で運ばれる人もいて。

 

辻先生)まじ?そんなこと聞いたら乗りたくなくなるじゃん。

 

桧野さん)私も選手じゃない人に後ろに乗ってもらったことがあるんですよ。そういうときは安全運転で滑ります。安全運転って言っても百何十キロは余裕で出てるんですけど、めっちゃ攻めたりはしないようにして。

 

辻先生)決まってんじゃん。攻めるとかやめてくれよ。

 

桧野さん)速いジェットコースター。

 

辻先生)でも、なんかちょっと面白そうだね。

 

桧野さん)そうですね。奥が深い競技だなって思いますし、チームの信頼感がありながらもお互いの役割は全然違うんですよ。私は運転する、後ろは押す、っていう。でもそのどちらかが欠けてもだめですし、死ぬか死なないかくらいの気持ちでお互いに信じ合って、片方だけでは成り立たない力を2人で合わせて1つになる。

 

辻先生)結構メンタルの話も出てきてるけど、ボブスレーに必要なメンタリティをあえて桧野さんの言葉で言語化すると、どうなるの?

 

桧野さん)ありのまま。

 

辻先生)あー、まじ。やっぱこねちゃうとだめだってことね。

 

桧野さん)そうですね。11年間の競技生活の中で、やっぱり気持ちの面で「死ぬかもしれない」と思うような弱い部分もあったのですが、不安になっちゃったらほんとに終わる。それに、2本しか滑れないじゃないですか。だから、たとえば1本目がすごい成績良かったら2本目を狙いすぎちゃって、どーんと沈んでいっちゃったり。逆に1本目がすごいダメでも、失敗しちゃったって受け入れて気持ちがリラックスできると2本目がすごい良かったり。

常にいろんな状況があって、たとえば自分の前の選手が転んでしまったらコースの手直しをするので時間が空いちゃったりするんですけど、30秒後にスタートするつもりで準備をしていたのに急に15分空きます、ってなることもあって。なかなか揺らがず囚われずのごきげんではいられなかったんですけど、どんな状況でも、どんなポジションにいても、得意なコースでも不得意なコースでも、常に自分を信じて、自然体のありのままの状態で、とにかく今自分ができることにフォーカスして気持ちを持っていくようにしていました。

 

辻先生)いいじゃないですか。

 

桧野さん)いろんな失敗をしながら、こういう時になったら過緊張するとか、こういう時になったら全然やる気が起きないとか、自分のタイプを知っていっぱいメモを取りながら、そういう時に自分の気持ちを持っていくには何をしたら良いのか、とかを考えながら。私の場合は、どうしても何か引っかかることがあるとやる気がなくなって気持ちを持っていくのが難しいタイプなので、そういう時にどうするか、みたいなことは常に自分で考えていました。

 

辻先生)そういうメンタルの持って行き方は、教わったりしなかったの?

 

桧野さん)サポートは受けていました。自分がどういう時に強くてどういう時に弱くなるのか、自分のタイプを知った上で、普段から1日に2本しか滑れないからこそ、トレーニングのときも自分で状況設定をしてトレーニングしたりしていました。ボブスレーって冬しか滑れないんですけど、冬じゃなくても、たとえば夏の間にスクワットやウェイトトレーニングをするときも、見る側からしたら1回のトレーニングに見えても、私はその1回をボブスレーに例えて、こういう状況だっていう状況設定をした上でトレーニングしたりとか。そういうことをして、毎日気持ちのコントロールの仕方をトレーニングしていました。

 

辻先生)へぇ。すげえなぁ。

 

桧野さん)どの競技もそうだと思うんですけど、気持ち1つで競技成績が全然変わるので。

 

辻先生)ぜひ見に行きたいわ。今度連れてってよ。

 

桧野さん)え、ぜひ。

 

辻先生)俺はやらんけど、見てみたい。競技者の話もっと聞いてみたいなと思った。

 

桧野さん)ぜひぜひ。

 

辻先生)桧野さんの子供の頃は、どんな子供だったんですか?

 

桧野さん)ボブスレーは18歳からの競技で、私は19歳で始めたんですけど、小学生の時は北海道のスピードスケートが盛んな地域で育って、スピードスケートで世界やオリンピックに行ってる人が周りにたくさんいるような環境だったので、私もオリンピックを目指すようなスピードスケートのチームに入って、上を目指していました。

 

辻先生)じゃあ、毎日スピードスケートやってたの?

 

桧野さん)一年のうち、ほぼ毎日練習していました。朝も4時半に起きて朝練していたり。

 

辻先生)帯広ですか?

 

桧野さん)はい。自分たちのチームで1位になれば日本で1番になれるっていう環境だったので、すごい練習してたと思います。

 

辻先生)ご両親はどんなご両親だったんですか?運動に関してはスパルタ?

 

桧野さん)全然です。父も母も何も代表歴とかないですし、普通の親でした。

 

辻先生)桧野さんが小さかった頃、どんな声掛けをするお父さんとお母さんでしたか?

 

桧野さん)チームがほんとに厳しかったので、スケートの事はチーム内で終わらせるという感じで。練習も辛かったですし、試合の振り返りもチーム内ではやってましたが、良いタイムが出たり1位になったりしても、調子が悪くてうまくいかなくても、家に戻ればお父さんもお母さんも一切何も言わなかったですね。私はそれが救いだったと思いますね。

 

辻先生)良かったね。

 

桧野さん)はい。あと、私ちっちゃい頃にいろんな習い事してたんですよね。水泳やったりバレーボールやったり、スポーツだけじゃなくて、ピアノも5歳くらいからやっていたり。

 

辻先生)それは、あなたがやりたいって言ったことをやらせてくれたの?

 

桧野さん)そうです。一回もだめって言われたことがなくて。やりたいって言ったらやんな、みたいな。もう北海道で自由に育った感じですよね。だから、ほんとにやりたいことをやっていたな、っていう。

 

辻先生)Dispoのほとんどのアスリートの共通点はそれだから。あんまりいやいや言う人はいなくて、「あなたがやりたいならやれば」っていう形の親が多いね。

 

桧野さん)そうですか。

 

辻先生)自由な人が。

 

桧野さん)本当に自由にのびのびで。公園に行ったら、走り回って、夜暗くなったら家に帰ってくるみたいな。

 

辻先生)自由なんだ。

 

桧野さん)自由に育った。

 

辻先生)生育歴の中でその自由な体感体験を持っていることが、ごきげんの感性に繋がるんですよね。もちろんトップになればなるほど、1ミリもずれないように認知的にスキルを高めることも大事なんだけど、あなたが思ったことを楽しくやりなさい、ってもともと親から自由に育てられてる人が多い気がするね。

 

桧野さん)私は家に帰って「今日のスケートはここがダメだったよ」とか「もっとこういう練習しなさい」とか言われたことが一切なくて。当時は陸上もやってたんですけど、家に帰ったらスケートの話も陸上の話もしなかったので、本当にそれで救われたっていうか。

 

辻先生)いやいや言われるとまたしんどくなるからね。

 

桧野さん)そうですそうです。良くても悪くても一生懸命やってるならいっか、みたいな。

 

辻先生)最高です。素晴らしい。じゃあ、桧野さんは、ごきげんっていう概念をどんな風に捉えていますか?

 

桧野さん)人間らしく生きていけるとか、心が豊かになるとか、心が動くとか。あとは、競技やってる時とはちょっと別ですけど、自然体とかありのままとか、のびのび、ニコニコみたいな感じです。

 

辻先生)じゃあ、みんなにご機嫌を広めていこうとした時に、なんでご機嫌なほうがいいんだってみんなに言いたいいいですか?

 

桧野さん)自分らしくいれるから。

 

辻先生)ああそうだよな。それが素直に言えるあなたが素敵ですね。そうなんだよ。

 

桧野さん)私、スピードスケートで怪我しちゃって陸上やって、陸上でも怪我しちゃってボブスレーやったんですけど、どの競技でも怪我が多かったので、なんで自分だけ怪我しちゃったんだろうとか、なんで自分だけ怪我したことでできなくなっちゃうんだろうって、周りと比べたことがあって。

 

辻先生)やばいね。

 

桧野さん)そしたらやっぱりすごい苦しくなっちゃったこともあるし、すごい悩んで、良いことだけじゃなくて、悲しいことでもたくさん心が動いてきて。

 

辻先生)そういう経験をしてきたゆえに、今言えるってことね。

 

桧野さん)そうです。ほんと、私別にそんないい子でもないし強くもないんですけど。失敗して辛い思いしたから学んだこともたくさんあるから、全然否定はしてなくて。でも、だからこそ私が怪我して入院して動けなくて車椅子で生活していた時に、自分のチームメイトが一生懸命頑張ってる姿を見て、「あ、なんか私って人と比べてるんだな」って自分で自分自身に衝撃を受けたことがあって、敵って相手じゃなくて自分なんだなーってすごい思って。いつも1位になれとか誰々に勝てとか言われ続けてきたんですけど、自分がダメになったときに、究極的には自分に勝てるかどうかのほうが大事だなって、周りを見て思ったんです。自分に勝てるかって自分に問いかけた時に、負けているぞって思って。

だから、人と比べるより、今できることをやったりとか、今日できたことが明日もうちょっとできるようになったりとか、その積み重ねでなんか復活してきたんですよね。

 

辻先生)伊藤華英ちゃんと一緒だな。

 

桧野さん)本当ですか。

 

辻先生)華英ちゃんも同じこと言ってる。

 

桧野さん)私は本当に怪我から学ぶことをしまくってるんですけど、そこから気づくことが多くて。もちろん勝負しなきゃいけないし、順位着くからそんなきれいごとじゃなく勝負かけにいかなきゃいけないところもあるんですけど、でも頑張っちゃいすぎたり緊張しすぎたりしたら、どうしても自分の力以上のものを自分が出そうとしちゃってるから。ほんとに周りにとらわれず、ありのままで自分ができることを全部出して、その結果が良くても悪くても後悔は無いみたいな。

 

辻先生)そういうことだね。じゃあ、今自分がご機嫌な生活を送るために心がけていることとか何か大切にしていることはありますか?

 

桧野さん)変わらないですね。たとえば、何かうまくいかない時があっても、それでもいいやって思うようになりました。そのまま受け入れる。できない時もあるよね、じゃないですけど。結果にとらわれない。そんなうまくいく人なんていないよと思う。

 

辻先生)そうね。結果を含めて、外側に起こる出来事に抗わないっていうか。極論言うと、雨の日になんで雨なんだって言ってる人と同じだから。そうだよな、雨降ることもあるんだから、っていう。

 

桧野さん)そうそう、そんな時もあるよって。でも投げ出すんではなくて、今やれることを自分なりに何か1つでもいいからやってみようとか。特に私は弱っちいので、今日はすごいやる気ないなぁとか、今日は無理とか思うときもやっぱりあるんですよ。どうしても。そういう日もあっていいし、そういう時はぱーって休んで、またやる気が起きたらよしやってみよう、とか思ったり。そういう人間らしい感情に揺らがず囚われずってわけではないけど、そういうところは揺れてるのかなぁ。でもなんか、それこそ人間らしく素直に。

 

辻先生)そうそうそう。人間の感情にも抗わないってことだよね、そうそう。

 

桧野さん)やっぱそれでよしみたいな、なんでもよしみたいな。

 

辻先生)うん、それでよし。日本人はそれを良しとするのがすごく苦手。常に反省して頑張る原動力が成功への道だって教わっているもんね。

 

桧野さん)そうですね。私競技選手やってる時にオランダチームに入ってたんですけど、その人たちから学んだことってものすごくあって。オランダのチームって日本人に足りないもの全部取り備えていて、日本で私が良いと言われていたことが向こうでは全部ダメって言われたんですよ。

 

辻先生)いい経験だね。

 

桧野さん)それこそ、がんばりすぎたりとか、オンとオフの切り替えとか。

 

辻先生)小平奈緒さんもオランダに行ってすごく自然体な捉え方になってるもんね。

 

桧野さん)本当に。心が豊かな人が多いなってすごい思います。

 

辻先生)オランダの教育ってすごく非認知的なことを大事にする。フィンランドもそうだけど。日本の教育って、認知的な教育しかしないから、一見真面目で固くて頑張る力はあるんだけど、自然体が弱いというか。日本の教育について今感じていることって何かある?

 

桧野さん)反省しすぎる。反省っていうか、課題をマイナスに捉えすぎてるような気がします。あと、苦手なものを苦手だって思いすぎてしまう。私は苦手なことがあってもいいし、苦手を強みにすればいいと思ってるんですよ。なのに、苦手じゃだめだとか、できないことがあるともっと頑張んなきゃいけないと思ってしまうのが日本の教育な気がするな。できなくても、みんなと違ってもいいし。オランダの小学校はそういう感じだったんですけど。

 

辻先生)何年行ってたの?オランダ。

 

桧野さん)オランダは毎年行ってました。夏はずっと合宿したり、引退してからも向こうにちょっと留学していたことがあって。現地のオランダのオリンピック協会連盟みたいなところと、ボブスレーの連盟みたいなところと一緒に過ごしたり。あと、私昔学校の先生になりたかったので、現地で小学校を見せてもらったり。

 

辻先生)そうなんだね。

 

桧野さん)そうです。ボブスレーいっちゃったから話がおかしくなっちゃったんですけど。だから教育っていうのにすごく興味があって、現地で知ってる人に学校に連れて行ってもらったりして。先生に、どういうモットーで、何を大事にして、どういう教育をしているのとか結構聞いたことがあって。こういうところで育ったら素敵だなって思って。

 

辻先生)今度ゆっくりオランダの教育について話す時間取ろうぜ。ほんとにいいと思う。非認知的な教育なんだよね、ライフスキルの。日本はそこを間違えちゃったけど。

 

桧野さん)オランダで、「あ、自分が生きてきたものが正しいわけじゃないんだな」っていう違いに気づいたというか。だから、オランダチームに入ったことは私の人生に大きく影響していると思います。

 

辻先生)良い話。Dispoのアスリートたちの印象はどうですか?

 

桧野さん)やっぱりみんな、外側じゃなくて内側を大事にしている人たちの集まりなんだなって思っていて。そうじゃない人って結構いるじゃないですか。アスリートの中でも同じ競技やってても、そんなの大事じゃない、みたいな人たちもやっぱり出会ってきてるので。でも私は昔からすごい疑問を感じていて、ボブスレーっていう競技で死ぬか分からない状況で、気持ちの大事さを感じたり、オランダでも、心の大事さとか、ありのままに素直に自分の軸で生きるみたいなのを見て、やっぱり心って大事なんだなぁとか思って。生きていく上で、人を大事にしたり、相手の気持ちを思い合ったり、そういう心の教育って大事だなって、引退してからも思ってて。日常の生活でも、いつも人を大事にしたり相手の気持ちを考えたり感じたりして人と接しているので。そういうのを大事にして、私は生きているので。Dispoの人たちってそういう人たちばっかりだから、こういう人たちいるんだってすごい思ったし。

 

辻先生)そうだね。

 

桧野さん)競技が全然違っても共通していても、スポーツで生きていく人もそうじゃない人も、全ての人にとってやっぱり内側の部分も大事でいいんだ、みたいな。それが間違ってないんだって再確認もできたし、それこそご機嫌です。

 

辻先生)そうだね。まだまだマイノリティーでメジャーじゃないけど、やっぱりこの生き方を大事にする人は少なからずいて、その人たちが成績もちゃんと出していたりちゃんと社会で生きて物事を考えていたりすることが安心だし、こういう仲間がいるっていうのはすごく心強いね。僕もいつも安心感あるなって思うよね。

 

桧野さん)はい。

 

辻先生)最後に、桧野真奈美さんの今後のビジョンについて聞かせてもらえますか?

 

桧野さん)そうですね。私引退してからいろんな人と関わって、アスリートも子供も大人もビジネスマンも海外の人も、いろんな人からいろんなことを学んで吸収してるところなんですよ、今は。だから、これからはアウトプットしたいなと思っていて、何か具体的にこれっていうのはないんですけど、私どこかでやっぱり学校の先生になりたかったっていう思いはあって、子供の教育にすごい興味があるので、それこそ、できなくても大丈夫、みんなと一緒じゃなくても大丈夫だしそれが強みになるんだよってことを伝えて、自分を認めてあげられる子をたくさん育てていきたい、そういう活動に関わっていくことができたらいいなって思っていますね。

 

辻先生)じゃあもうほんとにDispo一緒にやっていきましょう。

 

桧野さん)もうすごく楽しみです。

 

辻先生)学校の先生になりたいのか。

 

桧野さん)ちょっとなれなかったんですけどね、ボブスレー始めちゃって。

 

辻先生)でも学校の先生になったら、日本の教育カリキュラムに沿ってやらなきゃいけなくなるから、こういう事は教えられない可能性がある。これからの時代に、オリンピアンとしての肩書を使って、子供たちに本当に教えなきゃいけないこと、他の人が文科省のカリキュラムじゃ教えられないことを伝えて、体感してもらえることをやれたらいいよね。

 

桧野さん)そうですね。私も、引退してからのここ5,6年くらい、子どもたちと接することが結構多くて、子どもたちのフィードバックを見ると、10年とかくらいしか生きてないのに背負ってるものが多すぎるなってすごい感じていて。そんな頑張らなくていいんだよって思います。

 

辻先生)目標で生きちゃってるから、背負いすぎてる。

 

桧野さん)だから、もっと楽しく毎日生きてたら大丈夫だよって言ってあげたくて。

 

辻先生)じゃあ、それを結びの言葉としたいと思います。ありがとうございました。

 

桧野さん)ありがとうございます。ごきげんよう。